鈴木亜久里氏に直撃! 「フォーミュラE」の未来はどうなる?フォーミュラE、その中に元F1ドライバーとして活躍し、現在はARTAプロジェクトディレクターなどとして活躍する鈴木亜久里氏が参加するチーム「アムリン・アグリ」の名がある。
開幕戦直前に、エグゼクティブ・チェアマンとしてチームに携わる亜久里氏に話を聞いた。
フォーミュラE参戦を決めた理由はなんでしょうか?昔からEVに興味があって、この「フォーミュラE」が始まると知ったときは、面白そうなカテゴリーができたなと思いました。
ただ、参戦することまでは考えてはいなかったんですよね。
きっかけは、イギリスでF1に参戦していたときのスタッフ、マーク・プレストン、ピーター・マクール、フェリーという3人の仲間たちの「一緒にスーパーアグリをやろう」という言葉。
そのとき僕は、「以前のようにみんなを引っ張っていくパワーはもうない」と答えたのですが、彼らは「4人で力を合わせてやればなんとかなる」と言ってくれた。
だからスタートできたのであって、実際に今回の旗振り役はマークなんですよ。
とはいえスーパーアグリの仲間が再び集結したわけですよね。
F1時代の経験や技術的な財産は活用できそうですか?それはレースが始まってみないと分からないと思います。
どんな形になっていくのか、ほかのチームを含め、誰にとっても未知数。
ガソリンを使ったレースとはあまりにも違うんです。
フォーミュラEのポイントは、バッテリーとモーターをいかにうまく使うかです。
どのチームにも実績がない今、本当に未知の世界といえます。
コースの特色でもある、全戦市街地コースであることはどう感じていますか?現在のフォーミュラでも市街地コースを使うものは多いですよね。
例えば、インディカー・シリーズは市街地コースがほとんど。
当然、フォーミュラEを市街地のコースで開催することに、問題は感じていません。
ただEVだから、見えないと何処を走っているか、さっぱり分からないということはあるでしょうね。
通常のマシンなら、だいたいどの辺を走行しているか、姿が見えなくても音で分かりますが、EVは(静かだから)常に目で追っていないと、見失ってしまいそうですよね。
とはいえ市街地コースの場合は、全レースが街中で行われるから、わざわざサーキットまで足を運ばなくても楽しめるという観戦側のメリットもあるので、イベントとして面白いと思いますよ。
音がしないレースは迫力がないのでは。マシンを目の前にすると音がないことに違和感はないですよ。
テレビ観戦の場合は、ちょっと迫力に欠ける可能性はありますが、そこは実況で盛り上げてくれると思うし、期待したいところです。
そもそも近い将来、すべてのクルマがEVになる……という時代が来るかもしれないわけで、
音がする、しないなどということは、過去のことになっていくのではないかと。
エンジンがレースで鍛えられたように、フォーミュラEはEV時代に向けての“実験室”になっていくのでしょうか?レースは一番過酷な条件で戦うから、電池の容量やモーターの熱対策などEVの改善点は、このカテゴリーで磨かれていくでしょう。
フォーミュラEの1年目は、マシンの改造などが許されないワンメイクがルールになっています、2年目以降は改造や改良が認められています。
そうなると自動車メーカーや電機メーカーなどとの協力が、キーになってくるでしょうね。
フォーミュラEは環境面で優れているといわれますが、亜久里氏自身が、そう感じることはありますか?マシンに関してはカーボンだから再利用はできないので、必ずしも優れているとはいえません。
ただこれも今後、変化していくことは考えられるでしょう。
現在のルールの中でいえば、使用するタイヤを1セットのみとしているのは良いと思います。
既存の自動車レースの中で一番無駄になるのはタイヤです。
通常のレースでは、1回で何十本も消費してしまうんですよ。
一般的な感覚なら、何万kmも走れるタイヤなのに、サーキットを何十周しただけで、どんどん交換してしまうわけです。
そういう点で、僕は日本のGTレースもフォーミュラEのようにしていきたいと考えているくらいです。
例えば、3セットなら3セットと決めて全チームとタイヤメーカーがそれで戦えばいいだけのことなんですよ。
それを可能にするのが、技術の革新だと思っています。
ところでフォーミュラEでは、ほかに、これまでにない試みとしてソーシャルネットワークサービス(SNS)連動の、「ファンブーストシステム」が導入される予定ですよね。ファンから人気を獲得してブースト機能を多く使えたとしても、現状ではバッテリーの容量は同じ。
一時的にパワーを多く発揮できても、その分走る距離が短くなってしまうから意味がないんですよ。
エキストラなバッテリーが積めるなら良いアイデアだけど。
ただしまだ詳細は不明なので、良し悪しを断言はできないんですが。
ところで2年目以降、改造や改良のために、各メーカーとの協力が重要とのことですが、日本の自動車メーカーが参加することもあるのでしょうか?それも現段階では、分からないですね。
特に日本の自動車メーカーはある意味慎重なので。
ただ見方を変えれば、このカテゴリーなら自動車メーカーじゃなくても組むことができると思います。
バッテリーを作っているメーカーが参加することも考えられるし、電機メーカーが主導権を持って、レースをやっていく可能性だってあるのではないかと。
実際シャシーは自動車メーカーよりもレーシングカーメーカーのほうが完成度は高いんです。
だから電機メーカーは、そうしたレーシングカーメーカーと組めれば、可能性はいくらでもある。
あとは参戦できるのが全部で10チームと枠が決まっているので、その中でいかにマシンを速くするか、そのためにはどこと組むのかが重要になってきます。
今シーズンのチームでいえば、アラン・プロストが設立したフランスの「e.dams」はルノーと手を組みました。
ハンス・アブトが率いる「アブト(ABT)・スポーツライン」は「アウディスポーツABTフォーミュラEチーム」として参戦しているので、今後の開発にアウディが絡む可能性は極めて高い。
またオフィシャルカーとして「i3」「i8」を提供するBMWも、興味を持っているはず。
それにヤルノ・トゥルーリ(トゥルーリフォーミュラEチーム)の後ろには、トヨタがいるだろうし……。
とはいえ、うちのバックにホンダはいませんけどね(笑)。
チームの強みはどこにあるとお考えですか?正直、分からない。
でも、これはどこのチームも同じ感触だと思う。
テストの回数もまだ少ないし、本当に参戦しながら勉強していく感じになるでしょうね。
ただ、マークは一流のF1エンジニアなので、しっかりやってくれるでしょう。
今期の開催地には、残念ながら日本は含まれていませんが、日本開催も考えられますか?今は、分からない。
法的なこともあるかもしれないけれど、公道を1日だけクローズにすればいいのだから、不可能ではないと思います。
サーキットも2kmほどとそう大きいものではないから。 個人的には実現したいですね。
アムリン・アグリのドライバーを務めるキャサリン・レッグ選手とアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ選手はどんな選手ですか?キャサリンはなかなか速くていいし、アントニオもすごく速いドライバーです。
2人ともほかの選手に決して引けを取らないでしょう。
このレースは、体力よりも頭の使い方が問われるから、チームを含めてそこを注意してやっていきたいと思っています。
開幕戦前ですが、気になるチームやドライバーは?特にはないかな。
ただプロストのチームは、ルノーと組んでいるから速いかもしれないと見ています。
ルノーは今回、マシン製作にも携わっているんですよ。しかもドライバーも良い。
ただ、ほかのチームも今回は多くの実力ある有名ドライバーが参加していて、彼らのドライブが速いことは分かっていますが、フォーミュラEは速さだけでは競えない。
もちろん有名ドライバーが参加してくれるのは、話題性があって良いことですが、それが勝負の決め手にはならないですからね。
目前に迫った中国での初戦をどのように迎えますか?楽しみです。どういうレースになるか、本当にまだ見えない状態。
だからすごくワクワクしています。
どれだけ世の中が興味を持ってくれるかということも含めて。
初戦の北京にどれだけの観客が集まり、どれだけの人がテレビを観戦してくれるのか、期待しています。
改めて、フォーミュラE観戦の楽しみ方をお聞かせください。もちろん、これまでのレースを観戦する感覚で見ると遅く感じるでしょうね。
でも、レースの醍醐味はスピードだけじゃない。
いろいろな駆け引きもあるだろうし、さらにもう一歩踏み込んだ、バッテリーの使い方やチーム戦術で展開はすごく変わってくるはず。
だからこそ、面白いレースになると思います。
分かりやすくいえば、マシンを全開にすれば速く走ることはできるのですが、それだとあっという間にバッテリーがなくなって、完走すらできなくなります。
バランスよく走らせることが重要になってきます。
誰が最後にトップでゴールするか、そこまでの駆け引きを楽しんでほしいんです。
フォーミュラEに興味を抱いている日経トレンディ読者に向けてコメントをお願いします。音のないレースに、初めは違和感があるかもしれませんが、音がしないレースにだって面白いものはありますよね。
例えば、自転車レースやマラソンのように。
だから、これまでとまったく違う感覚で見てほしい。
レースのやり方自体が違うので、楽しめるポイントはいくらでもあるはず。
今は2台のマシンが必要で、途中で交換しなくてはならないし、スピードも遅い。
だけど、これからどんどん進化して、長い距離も走れるようになり、トップスピードも上がるはずです。
そしてこのEVレースの進化が、一般のEVの進化へとつながると思うので、そうした部分も楽しんでもらえたらと思います。
NIKKEI TRENDY NETから引用
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