日本で次世代エコカーの主役候補といえば、水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)ばかりが注目されているが、世界の自動車市場を見渡すと、EVやPHVといった電気自動車の普及促進が優先されている。
7月22日に発表された総合マーケティング会社・富士経済の調査でも、EVとPHVの世界販売台数は現状(2014年)でそれぞれ19万台、12万台と少ないものの、2035年予測では463万台(2014年比で24.4倍)、611万台(同50.9倍)と大幅な市場拡大を見込む。
電気自動車がこれほど期待される理由は何か。
富士経済は次のように分析している。
欧州やカリフォルニアなどのエリアにおいて、充電インフラの増加やこれに伴うサービスの充実以外にもEVの価値を認識するユーザーが着実に増加した。
欧州などでは、航続距離の延伸、EVならではの技術やサービスがさらに充実することで、リピート需要に加えて新規ユーザーを取り込み、市場は大幅に増加すると予想される。
また、主要国では補助金政策の下支えや、CO2排出量の環境規制がより厳しくなることを見越して、大手自動車メーカーが電気自動車の車種拡充を予定していることなどを挙げている。
GM、フォード、VW、BMW……、電気自動車開発に力を入れる大手メーカーは数多いが、最近では米アップルがEV参入を計画し、クライスラーから幹部を引き抜いたり、BMWとの協業が囁かれたりするなど、競争環境は業界の垣根を越え出した。
自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がいう。
昔だったらエネルギー効率の高いエンジンやハイブリッド開発などは、大手メーカーが1000人以上の人海戦術をしなければ出来なかったものが、いまはクルマづくりの設計技術が超速に進歩したために10人、20人のチームで完成させられる。
だから専業メーカーでなくても立派なビジネスとして成立し得る時代なのです。
日本に進出している電気自動車メーカーの米テスラモーターズも、元はIT起業家のイーロン・マスク氏によって2004年から本格的に事業拡大をした、いわば後発組である。
翻って、日本の自動車メーカーはどうか。
電気自動車開発に積極的なのは、残念ながら日産自動車1社といっても過言ではない。
「i-MiEV」で先鞭をつけた三菱自動車をはじめ、トヨタやホンダも基礎技術は持っているものの、新車開発には活かし切れていないのが現状だ。
結局、国を挙げて燃料電池車の普及促進が図られているために、メーカーもなかなか電気自動車との両睨みができない。
補給インフラの整備や走行コストを考えれば、燃料電池車の前に電気自動車を普及させたほうが、よほど現実味があるのに……(業界関係者)
だが、裏を返せば2010年の発売以来、約17万台(5月現在)の世界販売台数でジワジワと知名度を上げる日産の「リーフ」が、今後、国内外のEV市場で牽引役となれるチャンスが広がっている。
しかも、これまで電気自動車のネックと言われ続けてきた航続距離の問題も解消されつつある。
日産は今年後半にマイナーチェンジするリーフで、航続距離を228km→300kmに延ばすことに成功した模様だ。
EVで遠出をすると、常にバッテリーの残量が気になるうえ、エアコンなどを利かせているとカタログで謡われている距離は走れない。
私も過去に電気自動車を試乗して神奈川の箱根や小田原方面に出掛けたのですが、充電スポットがないところで航続残が数キロと表示されて冷や汗もののドライブになりました。(前出・井元氏)
日産のカルロス・ゴーン社長もEVの航続距離は近い将来に400kmまで延ばせると明言しており、それが実現すればガソリン車と遜色のないロングドライブが可能になる。
残る課題は、現在1万4000基ある充電インフラの増設や、さらなる低コスト走行の推進、そして「電気自動車だからこそ味わえる運転感覚の魅力訴求」(井元氏)が不可欠だ。
「先の先」といわれる燃料電池車の普及を見据えるあまり、気が付けばアップルなど“EV外車”に日本の自動車市場が占有されていた――なんてことが起こらなければいいが。
NEWSポストセブンから
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